何のことはない。マイはいたのである。
それもお隣の家に、ずうーっと。私が寒さに震えながら、一時間以上も探し廻っていた
あいだ、お隣さんの暖かな部屋に、彼女はいたのである。
私は、へなへなと力が抜けてしまった。
そしてマイが帰ってきた一瞬の喜びは、すぐさま、マイに裏切られたという感情に変わ
り、哀しくて涙が出てしまった。
マイはいつもと様子が違う。おそるおそる遠慮がちに部屋の中に入り窓辺においてある
木のイスに座り、薄目を開けて私を見ている。明らかにマイは、私がずっと探し廻って
いたのを、知っていたのだ。
マイが帰ってこなかったことを考えたら何だっていいんじゃないのと思う気持ちとは裏
腹に哀しみはまた違う感情に変わり、私はマイと口をきくのをやめた。
マイは私の冷ややかな態度に事の重大さを感じたのか、急にゴマをすりだした。私はマイ
を無視した。そして、翌朝も。
しかし我ながらあまりにも子供じみたことをしていることを恥じた。
とりあえず無事に帰ってきてくれたことを率直に感謝して、マイにお刺身をたっぷりご馳
走した。そして、私達は仲直りをした。
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