何年か前のことである。
どういう風の吹き回しか突然村から「星野村写真コンテスト」
の審査員の依頼の電話があった。コンテストなど好きではない。
思案した。でも引き受けた。ちょっと好奇心があった。
あれは大雪の後の朝だった。
私はタイヤチェーンをもっていない。
わが家から役場まで車で10分ほどの距離。
長靴はいて、雪道を歩くのは難儀した。
二時間ほどかかったように思う。
朝の一次審査には間に合わなかった。
昼から2次審査。
唯一の報酬と後でわかった昼食をすませ、2次審査に参加した。
他の審査員は写真同好会のメンバーだと思う。
男性ばかり7、8人いたでしょうか?
机の上に一次審査を通過した写真が並んでいた。
紙片を3枚ほど渡された。
良いと思った写真の前に紙片を置くようにと指示される。
置かれた紙片の数で賞の順位が決まる。
気に入った写真が一点だけあった。そう一点だけ。
「こういう写真が好きなんだ!」といって紙片を置いた。
写真同好会のリーダー、コンテスト審査委員長が私に続いて、
すかさず紙片をサッと置いた。
彼に尋ねた。「どうしてこれを選んだの?」
彼はすましていった。「桑島さんが選んだから」
「自分が良いと思ったのを選んで!」
彼は置いた紙片を手に戻した。
なぜ私は彼に選んだ理由を訊いたのか?
私には彼が良い写真と思うはずがないことは分かっていた。
下手な写真だった。まったくの初心者の写真だった。
ではなぜ私がその写真を選んだか?
神社で行われた火渡りの行事の写真だった。
幼児を抱いた若い男性が渡り終えた瞬間の写真だった。
安堵感と達成感でしょうか。歓びに満ちた表情が写っていた。
決定的瞬間を捉えていた。
フレーミングが悪かった。
トリミングすれば、欠点をカバーできたのにしていなかった。
よけいな空間が写ったまま、機械焼きで四つ切りに仕上げた写真だった。
全くのずぶの素人写真だった。たぶん嫁さんが写した写真だろう。
だけど、ご夫婦の感動が私には伝わって来た。私には新鮮だった。
火渡りの写真といえば、炭火の上を渡る緊張した表情を捉えた写真ばかり。
渡り終えた瞬間の表情を捉えた写真を私は見たことがない。
その写真には紙片が一つ置かれただけだった。落選になった。
グランプリを取った写真はそこそこの技術のある写真ではある。
だが感動がない。よく見かける棚田風景だった。
なんら目新しさのない、ありふれた風景写真だった。
どんな写真が入賞するかを調べた結果の写真と感じた。
いつもいつも同じパターンの写真が入賞していた。
「星野村観光写真コンテスト」であれば私は他の審査員が
選んだ写真を良しとしたに違いない。
翌年にもコンテスト審査の誘いの電話がかかって来た。
私はいった。
「私よりも皆さんの方が写真を見る目があるので遠慮します」
相手は納得して電話を切った。
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