1 明日のための寓話
アメリカンの奥深く分け入ったところに、ある街があった。生命あるもの
はみな、自然と1つだった。町のまわりには、豊かな田畑が - - - - -
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ところが、あるときどういうわけか、暗いかげがあたりにしのびよった。
いままで見たことも聞いたこともないことが起こり出した。どうしたことか、
若鶏はわけの分からぬ病気にかかり、牛も羊も病気になって死んだ。どこへ
いっても、死の影。農夫たちは、どこのだれが病気になったというはなしで
もちきり、町の医者は、見たこともない病気があとからあとへと出てくるの
に、とまどうばかり。そのうち、突然死ぬ人もでてきた。何が原因か、今も
ってわからない。大人だけでは無い。子供も死んだ。元気よく遊んでいると
思った子供が急に気分が悪くなり、二三時間後にはもう冷たくなっていた。
自然は沈黙した。薄気味悪い。鳥たちはどこへ行ってしまったのか。みんな
不思議に思った。裏庭の餌箱は、からっぽだった。ああ鳥がいたと思っても
死にかけていた。ぶるぶる体を震わせ、飛ぶこともできなかった。春が来た
が、沈黙の春だった。
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本当にこのとおりの町があるわけではない。だが、多かれ少なかれこれに似た
ようなことは、アメリカでも、他の国でも起こっている。
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おそろしい妖怪が、頭上を通り過ぎていったのに、気づいた人はほとんど誰も
いない。
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これらの禍がいつ現実となって、私たちにおそいかかるかー一思い知らされる
日がいつかくるだろう。
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15 自然は逆襲する
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1960年の調査によれば、生物的防除の分野で活躍してしている研究者は、
アメリカの応用昆虫学者のわずか二パーセントにすぎない。裏がえせば、
九十八パーセントは、たいてい化学的殺虫剤研究にたずさわっているのだ。
どうしてまた、こんなことになっているのか。理由は簡単だ。化学工業の
大会社が大学に金をつぎこむ。殺虫剤研究の資金を出すからなのだ。だが、
生物的防除の研究にそんなにお金が出ることは一度もない。
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生物的防除の研究などを援助すれば、化学工業はみずから自分の首をしめる
ことになるからなのだ。そしてまた生物的防除の研究は、州や中央政府の所属
の機関にまかせられている。しかもそこのつとめている人たちに払われている
給料はとても安い。またどうして有名な昆虫学者が化学薬品を熱心にすすめる
のだろうーこの不思議な事実も、こうしたことを考えてみれば、むしろあたり
まえなのだ。みんな化学工業関係の会社から援助を受けている。彼らの専門家
として名声、そればかりかかれらの仕事そのものが、化学的な方法がだめだと
なれば、つぶれてしまうことになりかねない。 餌をくれる飼い主の手をかむ
馬鹿な犬など、どこのいようか。
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17 別の道
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応用昆虫学者のものの考え方ややり方をみると、まるで科学の石器時代を思わ
せる。およそ学問ともよべないような単純な科学が最新の武器を手にして勝手
なことをしているとは、何とそらおそろしいことか。恐ろしい武器を考えだし
てはその鋒先を昆虫の向けていたが、それがほかならぬ私たち人間の住む地球
そのものに向けられていたのだ。
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