花子さんには娘さんが三人いた。二人は村外に嫁いで行った。
長女のN子さんと二人で暮らしていた。N子さんは勤めに出ていた。
花子さんは数年前から認知症の症状をみせるようになった。
N子さんは勤めを辞め介護に専念した。献身的に介護しておられた。
そのN子さんがこの夏に突然救急車で病院に運ばれた。ガンだった。
花子さんは村外の娘さんの家で介護されることにになった。
花子さんは生まれてこのかた自宅以外で生活したことがなかった。
結婚は婿取婚だった。「家に帰る」と言って聞かなかったという。
認知症がすすみ、娘さんは手に余り病院に入れた。
花子さんにはごく近くに嫁いだ妹さんがいた。
妹さんと一緒に野良仕事をしているのをよく見かけたものだった。
その妹さんが「見舞いに行くと帰ると言うだろうから見舞いに
行かない ・・・ 姉さんがかわいそう」と涙を流した。
私はN子さんのお見舞いに行った。
女性として辛く哀しい臓器摘出の手術にも気丈に耐えて
明るく私に応対してくれた。
数年前に撮った花子さんの笑顔の写真を差し上げた。
写真を見て急に泣き出した。
私は無神経なことをした気がした。
N子さんが退院した。
しばらく家で養生してからもう片方の摘出手術をする予定。
「予定より早く、今日入院することになりました」と挨拶に見えた。
明るい笑顔を見せてくれた。
まだ連日の猛暑が続いていた。早く入院できてよかったと思った。
手術後8日してお見舞いに行った。
手術に6時間かかったとお聞きした。
明るかった。お元気だった。順調に回復しているように見えた。
花子さんのことが気になってるが聞くことはできなかった。
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