不眠、集中困難、イライラで精神科を受診したことがある。
そのとき、人の顔が覚えられないことを医師に告げた。
医師は「検査しましょう。」といった。
パターン認識の検査をするのかと思った。
なんとIQテストだった。
結果は悪くはなかった。
医師は人の顔が覚えられないという私の話を
信用しようとはしなかった。
あるパーティで会場が隣室に移ったら、
今まで一時間近く話していた人物を見つけられなかった。
顔を思い出せなかった。
医師は「顔を見てなかったんだろう」といった。
初対面の人と顔を見ないで話をする人がいるだろうか?
他にも話したが、聞く耳をもたなかった。
医師は私の話を信用しなかった。
私を嘘つきと判断したようだった。
12年前、1999年の話である。
つい先日何の気なしに「顔を覚えられない」でネット検索して驚いた。
顔が覚えられない人が少なからずいらっしゃることを知った。
脳の損傷が原因で顔が認知できない「相貌失認」という障害があることを知った。
私は思い出した。
20代の時、頭に打撲傷をうけたことを。
私の家は神戸で銭湯をやっていた。
あれは女湯の脱衣室で、切れた蛍光灯の取り替え作業をし終えたときだった。
頭に激しい衝撃をうけた。
鉄棒で思いきりぶん殴られたような衝撃だった。
一瞬ボーとした。意識はあった。痛くはなかった。
脚立をそろりそろり降りて見上げてわかった。
蛍光灯の横の天井扇の羽根に頭が触れたのだ。
映画でよく見るゆっくりと回転している飾りのようなものとは違う。
真夏の夜だった。勢い良く回転していた。もちろん羽根は鉄製。
一回の接触ですんだのは幸いだった。
首に当たってれば命はなかったかも。
上を見上げていたので、頭頂部の後部が当たった。
血は少し出た程度だった。
男湯ならミスはしなかっただろうに (>_<)
すぐに外科病院にタクシーで行った。
若い医師はナース相手に品のない談笑しながら傷口をぬった。
軽い傷だから、医師は手慣れている証拠だと思った。
二人の談笑を耳にしながら、複雑な思いだった。
しっかり思えている。
頭に打撲傷を受けた唯一の記憶。
まだCT、MRIのない時代だった。
この春、また脳を損傷した。
脳出血で20日間入院した。広川町のB脳神経外科病院。
特に親切にしていただいた若い看護婦さんが3人いた。
そのうちのお二人の区別がつかなかった。
退院前日に挨拶した。
「お世話になりました。ありがとうございました。ところでKさんですよね?」
「またあ〜! 目が悪いの?」
年格好似ていた。共に茶髪だった。いつもにこやかに親しく話しかけてくれた。
私はお二人の区別がつかなかった。
「目が悪いの?」と言った看護婦さんは相貌失認を知らなかったに違いない。
お若いけれどしっかりした看護師だった。
脳神経外科病院で相貌失認が知られていないことをどう考えたらいいのだろう。
2011.9.10
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