第九章 愛娘の死 ルツ子の死 (前略) 彼女の病気は当時の医者には何であるか断定できなかった。局所不明の結核であると言う者もあったが、 高熱が六か月も続いた後亡くなった。しかしこの六か月の間に彼女の信仰はめきめきと進んだ。 ことに医者から死の宣告を受けてからの五週間は完全な信仰の生涯であった。 (中略) 内村が「おルツさん、内村家の信仰にさわるような療法によって治るよりも、死んだ方がましだね」 と言うと、「そうよ、もちろんそうよ」と答えた。また父が「今日からは医者も薬もやめて神様によって のみ全快を待とう」と言った時、娘は大満足の意を表わし、それからなくなるまで十二日間、 もっとも幸福な信仰的状態がつづいた。臨終の三時間前、内村はルツ子に洗礼をさずけ、また、親子三人 して聖餐式をした。 これはルツ子が連なった最初にして最後の聖餐式であった。彼女は細くなった手をのばして杯をとり、 主の血を飲みほして後、死にひんした顔に歓喜の色を浮かべ、「感謝々々」とくりかえした。 脈が絶えて後四十分、突然「もう行きます」と言って最後の息を引きとった。 |